【解説】遺産分割協議の進め方

この記事では、相続を初めて経験する方向けに、一般的な遺産分割の進め方を、ごく簡単に説明します。

遺産分割の基本的な流れ

  「遺産分割協議」は、「遺産」の「分け方」を、「相続人」間で、「協議して決める」ことを意味します。

 そのため、相続が発生した場合には、まずは「遺産」(どのような遺産があるか)、「相続人」(相続人となるのは誰か)、「分け方」(協議の前提となる遺言書はあるか)に関する正確な情報を収集する必要があります。

 これらの情報を基礎として、相続人間で遺産分割協議を実施します。

 協議内容がまとまったら、書面化し、各種名義変更手続等を行うことなります。場合によっては、相続税の申告・納税が必要になる場合もあります。

 他方で、諸事情により、遺産分割には参加せずに速やかに相続放棄を行うべき場合もございます。

 そこで、以下の項目で順を追って検討して参ります。

目次

1 遺産の分け方についての指定(遺言書)はあるか(遺言調査)

 遺言書が存在するか否かで、相続案件の進め方は、全く別物といって良い程に異なります。

 遺言書がある場合は、原則として遺言書の内容に従って遺産分割を行います。

 遺言書の内容によっては、相続人間の協議を経ずして遺産の分割が終了する、という事態も珍しくはありません。具体的には、遺言書に、「全財産を○○に相続させる」と簡単に記載されているだけで、遺産分割は終了したといえ、「遺留分」の問題に切り替わります。

 もし遺言書に拘束されずに、「遺産分割」を行いたい場合は、遺言書は無効なものと取り扱う必要があります。もっとも、自分に有利な内容の遺言を書いてもらった相続人が、遺言書を無効なものと取り扱うことには同意しません。多くのケースにおいて、そもそも相続人自身が積極的に働きかけて自ら有利になるように遺言書を書かせているためです。民事裁判で無効と認める判決をもらう必要があります。

 それほど、遺言書の有する影響力は強いですので、遺言書の有無・内容という情報を早めに取得すべきです。

2 「相続人は誰か」・・・「相続人」の範囲を確定すること

 亡くなった方を相続する資格がある人間関係を有する人物を、相続人といいます。  

 亡くなった方の配偶者(夫が亡くなった場合は妻を指します。妻が亡くなった場合には夫を指します)は必ず相続人となります。加えて、順位①亡くなった方の子(子が先に亡くなっている場合は孫)、順位②亡くなった方の父母(父母が先に亡くなっている場合は祖父母)、順位③兄弟姉妹(先に兄弟姉妹が亡くなっていれば甥姪)という順序で、相続人となる資格が認められています。相続の順位に関する説明は、別の記事にて行います。

 多くの相続案件においては、わざわざ戸籍を確認しなくとも、相続人の範囲は明らかであることが多いです。もっとも、相続を原因とする各種手続きについては、必ずといって良い程、相続関係を確認するための「戸籍」資料の取得が必須となります。そのため、まずは戸籍資料を市役所・区役所等から取得します。

 亡くなった方との関係性が薄い相続人にとっては、相続人が誰で全部で何人いるのかを調べる必要があるため、必然的に戸籍を取得することになるでしょう。注意すべきは、亡くなった方との関係性が濃く、戸籍を調べるまでもないと思っている方です。ご相談者の中には、戸籍を調べて見たところ、実は亡くなった方に隠し子がいることが発覚し、遺産分割の方向性・計画が白紙になってしまったとうケースもありました。このような事態を避ける観点からも、まずは必要となる戸籍書類をすべて取得し、相続人の範囲を確定します。

3 「どのような遺産があるか」・・・「遺産」の範囲や評価の調査、確定

 亡くなった方は、亡くなった時点で、どのような遺産を所有していたのかという情報です。不動産、預貯金、株式、有価証券、負債など、あらゆる財産をリストアップします。

 特に注意すべきは、土地や建物といった不動産です。

 全く心当たりがない場合は、調べられる範囲で第三者に情報を照会します。

 また、遺産の評価額が一定の金額を超えることが予想される場合は、後述する相続税申告・納税の要否についても気にとめる必要があります。

4 遺産の分け方についての話し合い・・・遺産分割協議

 遺産の範囲が確定したら、相続人全員で、どのように遺産を分けるかの話し合いをします。

 ここで各相続人が取得すべき割合の目安として「法定相続分」があります。遺産の分け方は相続人の間で自由に決めることができますので、法定相続分のとおりでも良いですし、法定相続分とは無関係な割合でも良いです。

 また、「法定相続分」を修正する要素として、「特別受益」や「寄与分」という概念も存在します。関係性の悪い相続人間では、特別受益や寄与分の主張が出ることが多く、紛争が長期化する原因の一つとなります。

 もし相続人間の話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所での遺産分割調停調停や遺産分割審判という法的手続を利用して解決します。場合によっては地方裁判所での民事訴訟を利用する必要もあります。

5 話し合いの結果の書面化・・・遺産分割協議書の作成

 どのように遺産を分割するか(遺産分割協議)がまとまったら、その内容を記載した遺産分割協議書を作成します。

 遺産の中に不動産を含む場合には、相続登記が必要になりますので、専門家に作成を依頼した方が無難です。

6 分割協議に基づく名義変更手続(遺産の分配)

 遺産分割協議書に基づいて、不動産の名義変更登記、預貯金の解約払い戻しなど、遺産分割協議の内容を反映・実現する手続きを行います。

 この場面で、相続人確定のために収集した戸籍書類一式や、相続人の印鑑証明書を、法務局や金融機関などの第三者に提出することが多いです。

7 相続税の申告・納税

遺産の評価額が一点の基準額を超える場合は、相続税の申告が必要となります。相続税の申告及び納税は、原則として相続開始から10か月以内に行う必要があります。

 この「10か月」という期間について、税務署は、遺産分割協議が未完了であることを理由に税務署は延長してくれません。遺産分割が未完了の場合も、いったんは未完了であることを前提として、相続税の申告・納税の手続きを済ませる必要があるため注意が必要です。

相続税の対応が必要と予想される場合はもちろん、必要かどうか分からないという場合も、できるだけ早期に税理士に相談することをお勧めします。

弁護士に相談した方が場合

 「兄弟間で、納得出来ない気持ちが出て、話し合いも出来ない状況」、「 親族が感情的になり話し合いにならない」、「 遺産分割協議で揉めそう」、「 話し合いで平和裏に解決できそうにない」、「 自分達だけで解決は困難だと思う」といった状況は、すでに当事者のみではなく、第三者を介入させた方が良いです。

 無理に当事者のみでの協議を続けると、かえって解決までの時間や費用が大きくなってしまうおそれがあるだけでなく、精神的なストレスも過大となり心身に不調を来す危険も生じてしまいます。このような事態になる前に、相続トラブルの解決に精通した弁護士に依頼することを強くおすすめします。

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